
矯正歯科治療では歯を動かすために歯に“力(矯正力)”を加えます。このとき、その力の反作用は他の歯が受け止めてくれることになりますが、反作用を受けた歯も同時に動くことになります。動かしたい歯を動かし、動かしたくない歯を動かさないというのが矯正治療を成功させるための秘訣です。このとき、動かしたくない歯のことを“固定源”と呼びます。これまでは、“固定源”としてヘッドギアなどの、不確実な上、お口の外に見える装置を使用していました。
この25年ほどの多方面にわたる研究により、歯科矯正用アンカースクリュー(右図)を顎の骨に植立して、これを“固定源”にすることで、従来の矯正治療と比べて確実で多様な歯の移動が可能となりました。歯科矯正用アンカースクリューは直径1~2mm、長さは、6~8mm前後の小さなネジの形をしています。材質はチタン製ですので、人体への為害作用も少なく安全な材料です。また、矯正歯科外来で植立のための処置をすべて行うことができます。
当科では、歯科矯正用アンカースクリューが必要と診断された場合、植立する場所を決定するために、まず、CT(コンピューター断層エックス線画像)を撮影し、詳しい検査を行います。次に、歯科矯正用アンカースクリューを矯正歯科外来にて植立した後、ふたたびCTを撮影し、正確に植立が行われたかを確認します。その後、矯正歯科治療を継続します。植立処置は少量の麻酔(局所浸潤麻酔)下で行い、植立に要する時間は通常10分程度です。外すときにも同様に少量の麻酔下で行い、容易に撤去することが可能です。